「強い子を育てたい」に待った!『身を守る力』≠暴力ですよ!子育て/親の願い/小学校
「自分の身を守れる『強い子』になってほしい。」
親の願いとして、普通のものだと思います。
でも、その願い、子どもの成長に悪影響を及ぼす可能性があります…!
「強い子」を願って子育てすることのリスクについて、元小学校教諭の観点から考えます。
『身を守る力』=暴力??
子どもに「いざという時、自分の身を守れるように」と空手など武術を習わせる家庭があります。スポーツとしての武術は素晴らしいものです。しかし、武術の稽古を通して、「いざという時の暴力」を身に着けさせるという目的はどうなのでしょうか。
確かに、犯罪に巻き込まれた時など、暴力によってしか解決できない事態を想定することはできます。「子どもが暴力さえ身に着けていれば、我が子だけは無事になるかもしれない。」そんな考えがあるかもしれません。
それでも、子どもに「いざという時の暴力」を求める親は、子どもが暴力を身に着けることの悪影響について、十分に検討できているのでしょうか。暴力を身に着けた我が子の生活について想像できているのでしょうか。
暴力の習得が、子どもの成長に与える悪影響は決して少なくありません。
暴力的な「強い子」の実態
「強い子になってほしい」という保護者の願いを受け、空手を習っている小学生を何人か指導してきました。空手などの武術では、ケンカはご法度だと思います。しかし、武術を習っている子は、習っていない子に比べて、トラブルやケンカの頻度が多いという実態がありました。
武術を習っていて、ケンカに発展してしまう子の特徴として
- 自分の腕っぷしに自信がある
- 日頃から武術を習っていることを周囲に自慢する
- いつもは武術を使わないように我慢している
- ケンカに負けたくないというプライドがある
などが挙げられます。
「強い子になってほしい」という親の願いを一身に背負い、自分自身のことを「武術ができる強い子」だと自覚しています。そのため、「俺はケンカしたら強いよ」「本気出したらお前なんてボコボコだよ」などと、事あるごとに言ってしまいます。いつもは「武術を使ってはいけない」という決まりを守ろうとしますが、隠し持った自分の力を誇示したいという気持ちは見え隠れしています。
すると、そういった強気な態度が引き金となり、周りの子とトラブルになる事態が増えます。トラブルになっても「ケンカしたら勝てる」という強気な態度を崩さないため、実際にケンカに発展する事態も多くなります。
いざケンカになったら「武術を使ってはいけない」という決まりを守れる子はいません。ケンカに勝つために武術の稽古をしているようなものですし、武術を習って「強い自分」と自覚しているにも関わらず、友達になめられたり、ケンカに負けたりするのはプライドが許しません。
結果的に武術を使ってケンカをし、相手を大怪我させてしまう事件もありました。暴力を身に着けていなければ、ケンカに発展する事態が少ないですし、武術を使って相手を大怪我させることもありません。『身を守る力』のはずの暴力が、周りの子を傷つけてしまうのです。
日頃から自慢したいぐらいに「武術を使ったら強いんだ」という考えが芽生えます。ふとした時に暴力的になってしまいます。まして、ケンカになり、カッとなってしまったら、自分を抑えられる子どもはいません。「ケンカはご法度」なんて決まりを守り抜くことは不可能でしょう。
「とにかく、強い子に」のリスク
子どもが暴力を身に着けてしまったら「暴力を使わずにいられない」「友達を傷つける可能性がグッと高まる」という実態について書いてきました。
それでも、いざという時のため、暴力を身に着けることが大切でしょうか。
「いじめられるぐらいなら、いじめる側になる方がマシ。」「我が子が傷つけられるのは絶対に嫌だ。」という思いで、子どもに暴力の習得を望むでしょうか。
「強い子に」という「親の願い」が子どもに与えるリスクについて本当に考えられていますか・・・?
暴力は暴力に支配される
暴力は人間関係に大きな影響力をもちます。暴力があればケンカに勝てるし、周りの子に一目置かれるでしょう。勉強ができなくても、横柄な態度をとっても、馬鹿にされたり、いじめられたりされなくなるかもしれません。
しかし、暴力によって手に入れたものは、暴力によって失うのです。
これまで暴力で、ケンカは負けなし、相手を怪我させても自分は無傷。親も、我が子が怪我しなければよしと思っていたとします。そこに自分より「強い人」が現われたらどうなるでしょうか。暴力で築いた地位は一瞬で奪われ、その相手とケンカをすれば大怪我をさせられることでしょう。
ケンカに勝ち続けることで、必ず自分より暴力的な相手とケンカする機会がやってきます。今まで友達を傷つけてきた分、それ以上の傷を負うことでしょう。
暴力で解決してこなかったら、暴力という手段がなかったら、ケンカを避ける生き方をしていたら、出会わなかったであろう暴力的な相手と出会い、大怪我を負う未来が約束されてしまうのです。
「いじめられるぐらいなら、いじめる側になる方がマシ。」
という暴力的な考えは、いつか鏡のように自分自身に帰ってくるのです。
それでも暴力を身に着ける必要があると言えるのでしょうか。
まとめ
暴力を身に着けてしまうことのデメリットをまとめます。
- ケンカに自信を持ち横柄な態度になりやすい⇒結果ケンカが増える
- 暴力で相手を大怪我させてしまう
- いつか、自分が暴力に屈する未来が約束される
『身を守る力』=暴力ではありません。危険な行動を取らないようにしたり、周りの人と協力できる信頼関係を築いたりすることも、自分の身を守ることに繋がるのです。
暴力が「身を守ってくれる」と思っていると、暴力に傷つけられることになります。「争いは争いしか生まない」なんて正論だけで済まない世の中かもしれないですが、人を傷つけることをよしとする考えは、結果的に自身を傷つけることになります。
暴力に頼らない生き方について、ご家庭でも指導して頂ければ嬉しく思います。